2012年5月30日水曜日

展示を終えて。

長谷川謙一郎氏撮影
PILE DRIVING  フィールドワークの記録と妄想のインスタレーション
萩原富士夫+矢尾伸哉 展 先週土曜日26日に無事終了いたしました。多くの方にご来場頂いて誠にありがとうございます。数々の貴重なご意見ご感想をいだだきました。今後の作品制作の励みとなりました。そしてなにより矢尾伸哉さん、ともに新しい発見と経験を得ることができたこと心から感謝します。


2010年の夏、矢尾氏との会話の中からそれは始まる。人間の行為を、監視カメラのような上方からの視線で撮影したらどのように見えるのだろうか?上空からの視線が、身体の行為と場所の関係にに新しい枠組みを与えるのでないか?そんな疑問から制作は始まる。そして幾つかの撮影方法の中からバルーンを使用することを選んだ。 動画は空中に浮遊するバルーンの様子。第1回目の撮影地は以前ブログに書いた三番瀬。

 ヘリウムガスを充填させた3つのバルーンでヴィデオカメラを約10mの高さまで持ち上げた。
私はその下で、ハンマーで木製の杭を地面に打ち込んだ。資機材の運搬は自動車に頼らざるを得ない。よって自動車が入り込める場所。廻りに樹木等があるとバルーンがそれにふれて破裂する恐れがある。地権者に許可を得てからの撮影ではなく、ゲリラ作戦で行う等々の条件を満たす場所を求めて、東京近の郊外の造成地や河川敷などを車でフィールドワークする。結果として季節と場所を替え計3カ所で撮影をした。
矢尾氏によって編集された映像を見て面白いことに気づく。風船が大気の流れによって揺れるので全体が揺れ続ける映像になったことは予測の範疇であったが、行為を行う場所の固有性が希薄なのだ。匿名性を帯びた場所とでも言えるか。砂地であったり、草がまだらにはえた荒れ地という表面の質感は見て取れるのだが、それが一体どんな場所なのかが、はっきりとしない。たぶんバルーンの浮遊高度をさらにあげれば車道や畑、河川などが画面に映り、場所のイメージがより具体的になるのだろうが、そうすると今度は行為する身体が見えなくなる。場所のイメージが、水平的なまなざしによって生まれることがよくわかった。それが風景というものなのか。場所と風景には差異がある。

ここで言葉遊びを一つ。私達は撮影地を探して車を走らせることを旅=travelととらえた。
travelはtravailと同一な起源を持つ。travail =苦労、陣痛、骨折り、苦労した仕事。こんな言い回しもある。travels in the blue  白日夢、放心。原義は旅の骨折れ。そしてこれらの英語はtripaliumというラテン語からきた。tripalium=three pile  三本の杭。それは罪人を拷問するための道具のこと。

さて展示であるがここで私が一人で語れるものではない。矢尾氏との共同作業。複数の思考の流れがそこにある。いずれ何らかの形式に二人でまとめるつもり。Facebookにより多くの写真をアップしてあります。アカウントをお持ちの方は是非ご覧になってください。



矢尾伸哉撮影

2012年5月16日水曜日

PILE DRIVING

よいよ来週月曜日から東京の表参道画廊にて矢尾伸哉さんとの共同制作品PILE DRIVINGの展示をします。ただいま制作の最後の追い込みをやっている最中です。ダンスを中心に活動してきた私にとって初めての美術制作。しかも共同制作です。矢尾伸哉さんは、古くからの友人であります。主に写真・映像を手段として作品を制作している作家です。パフォーマンスアートも行っていました。そのうちこのブログで再検証するつもりですが谷中会議という10年以上継続したパフォーマンス・ミーティングの主要メンバーでありました。今回の展示は私がダンスを通じて感じていた身体観を、いったん解体し、別のものに作り直したいという提案を矢尾さんが受けてくれることから始まりました。2010年の夏のことです。私の暴走する妄想を、矢尾さんが鋭く批判し切り返す。行為する者、撮影する者の違いを超えた、ある共通の場所感が生まれてくる。そしてようやくかたちになりました。皆様、よろしくお願いします。表参道画廊ホームページプレスリリース

2012年5月6日日曜日

三番瀬 東京湾で考える

4月30日に、千葉県船橋市の船橋三番瀬海浜公園に行ってきました。三番瀬とは浦安から市川、船橋、習志野市にかけての沿岸にある巨大な干潟です。一般的に汚いというイメージでとらえられがちな東京湾の中で、三番瀬の水域には豊かな生態系があります。アサリや海苔、スズキ、カレイ等の江戸前海産物の貴重な漁場であり、シギ、チドリ、アジサシ、スズガモなどの渡り鳥の重要な中継地で、渡りの季節には多くの種類の鳥達が騒々しく鳴きながら、ゴカイやカニや貝を食べて渡りに備えている姿が見られます。鳥たちは習志野市にあるラムサール条約に登録された谷津干潟と三番瀬の間を往復しているようです。埋め立てが進む前は谷津干潟も三番瀬と繋がっていたのでしょう。このような干潟は世界各地にありましたが、農耕に適さないヘドロの海と見なされ、干拓、埋立地によって次々に消滅していきました。今は生物多様性の観点のみならず水質浄化作用もあるとされ
保護すべき貴重な場所と見なされています。
三番瀬海浜公園から浦安市を望む

私はこの海から、色々勉強させてもらいました。湾岸地帯の工場や倉庫群を通り抜けた先に広がる干潟とその自然。人間の営為と自然とが接する境界線。そんな場所が東京湾の最奥部にあるとは知りませんでした。実際に歩いて見てみないとわからないものですね。
初めて行ったのは94年でしょうか。私はすっかりバードウォッチングにのめり込みました。双眼鏡と図鑑を持ってかよったものです。水鳥たちの様々な形態の嘴や、捕食のスタイルの違い。鳴き声。群れになって飛行する際の複雑なフォーメーション。渡りの季節、ああまた会えたという感じ。潮の満ち引きで変わる干潟の表情。水の時間。
干潟での体験から私は初めてソロダンスをつくりました。「水と羽」です。白い模造紙を干潟と見立てて、その紙とどうか関わるか?ということを振付の軸としました。今思い返すと、かなり自分の心象スケッチに依存しすぎた感がありますが、初めてのソロということで生々しく覚えています。また挑戦したいと思っています。

三番瀬の水鳥たち。

そんな思い入れのある三番瀬ですが、豊かな自然といっても、他の水域と比べてということで、手放しで楽観視していれば状況は悪くなるでしょう。最近では河川より東京湾に流れ込む放射性物質の堆積などが懸念されています。また陸地の公園も液状化現象や地盤沈下があったようで立ち入り禁止区域が多くありました。陸地の人間の世界と柔らかい干潟の自然の対立を見るような感じがしました。

集められた漂着物